石川淳「普賢」

今回は石川淳「普賢」を読みました。

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石川淳(1899年-1987年)と言えば、太宰治坂口安吾と同じ無頼派に属する作家ですね。

「普賢」は1936年に書かれたもので『作品』6月号~9月号に掲載されました。

この作品は第4回芥川賞受賞作品でもあります。

2021年1月に発表された宇佐美りんさんの「推し、燃ゆ」が第164回ですから、かなり昔であることが分かりますね。

また、有名な「佳人」とともに石川淳初期の作品と称されています。

 

「普賢」の主人公・〈わたし〉は、私立大学を中退し、貧困のなか作家として食べていこうとします。

彼はジャンヌ・ダルクを崇拝する作品を作った女流詩人、クリスティヌ・ド・ピザンの伝記を書いている、いわば作家であります。その売れ行きは怪しいのですが。

彼は、ひょんなことからろくでもない人間達にあい、さまざまな生き方を眼にします。酒にいりびたっている人物や、モルヒネに溺れる妻を持つ男、不倫相手の愛人を取られる男など、その様子は多種多様です。

そして、なによりも〈わたし〉自身も「書く」ということについて、ずっと苦しんでいるのです。

そんなお話であります。

 

この作品は〈饒舌体〉というものがなによりも特徴的です。

その文章は息をつかせないほど、一文がながいです。

 盤上に散った水滴が変り玉のようにきらきらするのを手に取り上げて見ればつい消えうせてしまうごとく、かりに物語にでも書くとして垂井茂市を見直す段になるとこれはもう異様の人物にあらず、どうしてこんなものにこころ惹かれたのかとだまされたような気がするのは、元来物語の世界の風は娑婆の風とはまた格別なもので、地を払って七天の高きに舞い上るいきおいに紛紛たる浮世の塵人情の滓など吹き落されてしまうためであろうか、それにしてもこれはちょっと鼻をつまめばすぐ息がとまるであろうほどたわいのなさすぎる男なのだ。

出典元:石川淳『普賢・佳人』講談社

 

上の引用は、「普賢」の冒頭部分になりますが、ほんと長いですよね。

すごい読むのは大変だと思いきや、読んでいるうちにこれがくせになる。

いやはや、恐れ入ります、石川淳先生。

 

そんなくせになる「饒舌体」、実際に読んで確かめてみてください!

 

今回はこれで。

ではでは。

 

最後までよんでいただきありがとうございました!