小林真大『「感想文」から「文学批評」へ:高校・大学から始める批評入門』

今回は小林真大『「感想文」から「文学批評」へ:高校・大学から始める批評入門』を読みました。

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本書は小鳥遊書房から2021年2月26日に出版されたものです。

筆者の小林真二さんは現在インターナショナルスクールにて国際バカロレアの文学教師を勤めているそうで(2021年8月現在)、他の著書に『文学のトリセツ―「桃太郎」で文学がわかる!』(五月書房新社、2020年)があります。

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さて、国際バカロレアって何?という疑問を多くの方が持たれると思います。

国際バカロレア(IB)については、文科省のHPで次のように紹介されています。

国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム。
国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)は、1968年、チャレンジに満ちた総合的な教育プログラムとして、世界の複雑さを理解して、そのことに対処できる生徒を育成し、生徒に対し、未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせるとともに、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を与え、大学進学へのルートを確保することを目的として設置されました。
現在、認定校に対する共通カリキュラムの作成や、世界共通の国際バカロレア試験、国際バカロレア資格の授与等を実施しています。

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海外の機関や企業で働く人、外交官の人らの子ども達に、国際的に通用する大学入学資格を付与することで国内外の大学に進学できるようにするという制度なんですねぇ~。

こんな制度があるなんて知らなかった!!

 

あまり聞き慣れない経歴の小林さんですが、調べてみるととてもすごい方なのがわかりますね。

私は英語がしゃべれない人間ですので、小林さんのような経歴の方を見ると、自分も国際的な視点を取り入れていかなければいけないなぁということをいつも思います。

 

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前置きが長くなりましたね。

 

本書は文学の「批評」の入門書であります。

学校で書かされた「感想文」と「批評」、違うの?ということがよくわかる本であります。

「高校・大学から」という通り、かなり分かりやすく丁寧に書いてあるので、比較的読みやすいものであると思います。

 

「批評」とはそもそもなんぞや?

小林さんは批評力について以下のように言います。

自分の感想に客観性を加えるためには、どうすればよいのでしょうか?そのために欠かせないのが、批評力です。批評力とは、物事の価値を客観的に判断する能力のことを指します。

(中略)

批評力は自分の意見を効果的に述べ、相手を説得させるために欠かせない、重要なスキルともなっているのです。

なるほど、批評力があれば自分の意見を説得力を持って主張できますね。

そして、この本は「文学批評」なので、文学作品の内容や魅力、価値などを客観的・論理的に述べる方法をまとめたものと言い換えることができそうです。

 

さてさて、小林さんによると文学批評には6つの型があるとか。

① 作家論(作者重視)

② ニュークリティシズム(メッセージ重視)

③ 読者論(読者重視)

④  構造主義(コード重視)

⑤  イデオロギー批評(コンテクスト重視)

⑥  メディア・スタディーズ(接触重視)

 以上に本書では分けられています。

この6つの型はそれぞれが独立しているように見えますが、実はそうではありません。作家論を乗り越えるためにニュークリティシズムが、ニュークリティシズムを乗り越えるために読者論が生まれたというように、前の批評形態から新しい批評形態が生まれたという批評の歴史を踏まえたものであります。

いわば、本書は今まで行われきた文学批評の歴史=文学批評史がまとめられたものと捉えてもいいのかもしれません。

 

いつの時代も誰かが文学の批評を思いつくのだけれども、そこにはどこかしら矛盾や問題点があるので、それ乗り越えるために新しいものを考えてきたということですね。

 

実際にはどういったものなのかを本書では詳しく述べられているので読んで欲しいのですが、読むのはそんなに難しいというわけではありません。

というのも、新美南吉「ごんぎつね」や夏目漱石「こころ」といった皆が知っている話がその批評の例えとしてあげられているので、とってもなじみやすいものであるからです。

 

このように文学批評について書かれたものでありますが、最後に小林さんは文学批評がもつ社会的責任に言及しています。

作品を評価する際に私達は価値判断をくだしますが、そのなかで私達は「支配的なセンス」=「社会的に承認されている支配的な価値判断」を持って作品を価値判断します。

こうした「支配的なセンス」によって確立された作品は「人々の価値観に不可逆的な影響を及ぼす」と小林さんは言います。本書でもあげられていますが、夏目漱石を好きでもないのに学校で読まされることは、そのことを如実に物語っていますね。

つまりは、批評家は作品に価値判断を与えますが、そのことを通して社会的な価値観を変えてしまう危険性があるということですね。

そのことに自覚的にならなくてはならないということを小林さんは言いたかったのではないかと思います。

 

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文学に興味があるけど何をしていいのか分からない方や、文学作品を論じてみたといった方は是非一読することをお勧めします。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。